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2018.08.16 ミャンマーにおける新しい商標法


(1)はじめに

 2018年2月15日にミャンマー連邦議会によって新しい商標法案(以下、法案という)が承認された。この法案は更なる検討と承認のために人民院(上院)に送られ、その後、人民院と民族院の合同会議に提出される運びである。合同会議が同法案を承認された後、ミャンマー共和国大統領に送られる。同法案が大統領によって署名されるとミャンマー国政府公報によって公開される。しかし、施行の際に直ちに有効とはならない。同法案の第1条(A)によれば、大統領令の発行によって大統領により設定される日から有効になる。これは、新しい商標法の制定後、新法の施行までに、更なる準備期間と規則等の発行が必要になり、知的財産庁や知的財産裁判所の設立が必要になるからである。

 

(2)新しい商標法についての注目すべき点

 この法案には、現行制度で登記の際に記録される商標の保護を継続する規定はない。現行制度で登記の際に記録されたすべての商標について出願人は新法の下で再度保護を求めて出願しなければならず、そのような既に登録された商標について商標権者の登録された宣誓供述書の写しを提出しなればならない。

 

(3)新しい商標法についての他の注目すべき点

①異なる日に、2以上の出願人が、同一の又は類似の商標を出願した場合、最も早く出願した出願人が登録される権利を有する。

②種々の出願人によって主張された優先権については、最先の優先権をもつ出願人が登録される権利を有する。

③登録手続きには、形式的審査及び実体審査、異議申立のための公開、登録証の付与が含まれる。

④絶対的理由或いは相対的理由に基づく異議申立は、公開後6カ月以内に異議申立の費用を納付することによって何人でも手続をすることができる。

 

(4)その他

 大雑把に言って、約90,000件の商標が現行の登記制度の下で登録されている。これら現行の制度下で登録されたすべての商標は、新法の下で権利を維持するために再度登録のために出願する必要がある。そのための詳細な手続、費用は、規則等が発行されるまで分からないが、新法が発効されると、最先の出願を準備するための法案に要求されたとおりに以下のとおりの、幾つかの準備をしておく。

  • 外国語(例えば、日本語)で記載された商品の説明やリストを予めミャンマーの公用語に翻訳しておく。
  • 出願人(個人或いは法人)の氏名(名称)及び住所
  • 商品の国際区分及びリスト
  • 出願人が法人の場合、その法人の登録番号、法人の種類、及び国籍
  • 優先権を主張するとき、優先権の認証された証拠
  • 展示権(exhibition right)を主張するとき、展示権を裏付ける証拠
  • 出願する商標について既に登記局で登録されているとき、その認証

 

 

 

ミャンマーにおける新しい商標法案の概要

[I]主な特徴

  • 新法の下では先願主義が採用される。
  • 優先権主張が導入される。
  • 周知商標が承認される。

 新しい商標法案は民法上及び刑法上の救済を規定している。偽造品の輸出入時の差し押さえを可能にする。商標権者はミャンマー税関での登録の有無に関わらず、税関に対して輸入された偽造品或いは蓋然性の高い偽造品に対して輸入の中止請求をすることができる。

 

[II]出願

  • 出願人はミャンマー語或いは英語で出願をすることができる。
  • 登録官の要求に応じて、英語からミャンマー語への翻訳文、或いはミャンマー語から英語への翻訳文を提出しなければならない。
  • 前記翻訳文は出願人の署名によって認証しなければならない。

 

[III]出願の要件

  • 登録のための願書
  • 個人或いは法人の氏名「名称」及び住所
  • 出願の代理人の氏名及び住所
  • 商標の明確で簡潔な表示
  • 商品及び役務に関する国際分類による分類
  • 必要な追加の要件
  • 出願人が法人の場合、その法人の登録番号、法人の種類、及び国籍
  • 優先権を主張するとき、優先権の認証された証拠
  • 展示権(exhibition right)を主張するとき、展示権を裏付ける証拠
  • 出願する商標について既に登記局で登録されているとき、その認証
  • その他当局に要求されるもの
  • 異なる日に、2以上の出願人が、同一の又は類似の商標を出願した場合、最も早く出願した出願人が登録される権利を有する。
  • 種々の出願人によって主張された優先権については、最先の優先権をもつ出願人が登録される権利を有する。

 

[IV]拒絶理由

  • 絶対的理由
    • 識別性のないもの
    • 商品或いは役務について単に記述的に記載したもの、関連づけられる情報、品質、数量、意図される使用、意義、産地、生産日等
    • 例外:(イ)既に使用され、出願日までに消費者の間で著名(prominent)になっているもの、(ロ)専ら出願人が継続して当該商標を誠実に使用してきたもの
    • 公序良俗に反するもの、国家の尊敬された文化・信用を傷付けるもの
    • 使用によって一般的な表現、習慣になったもの
    • 公衆に誤解を与えるもの
    • 国家の旗、記念の図或いは紋章、指示や案内を表示する国によって規定された公式のシンボル、品質が認められたことを示す標章、国家間の記念の図、旗、記号、名称或いは略語。
    • 現行法によって妨げとなるもの
    • ミャンマーがメンバーとなっている国際条約で規定された標章、記号
  • 相対的理由
    • 他人によって既に登録された商標について同一又は類似の商品/役務に係る同一又は類似の商標を使用して消費者を混乱させるもの
    • 個人又は法人に影響を与えうる商標であって許可なくその商標を使用すること
    • 他のIPRを侵害するもの
    • 悪意で出願したもの
    • 提案された商標及びその商品/役務が周知商標と同一又は類似のもの。異なる商品または役務の分類であるが、斯かる商品又は役務が周知商標の商標権者に関するもので、周知商標の商標権の業務に影響を及ぼすもの

 

[V]登録手続

①登録手続きには、形式的審査及び実体審査、異議申立のための公開、登録証の付与が含まれる。

②絶対的理由或いは相対的理由に基づく異議申立は、公開後6カ月以内に異議申立の費用を納付することによって何人でも手続をすることができる。

 

[VI]優先権の主張

  • 出願人がパリ条約又はWTOのメンバー国へ出願した場合であって、前記出願人同一の出願人又は該出願人の譲受人が第1国出願の6カ月以内に同一又は類似の商品/役務に係る同一の商標を出願する場合
  • 出願人がパリ条約のメンバー国で展示されたもの又は各国政府の監理によってWTO展示会で展示された商品/役務を出願した場合であって、その展示の日の6カ月以内に出願する場合

 

[VII]不使用取消の訴訟

商標権者によってなされた誠意ある理由が存在しない場合であって、登録の日から3年間登録商標が不使用の場合、或いは3年間連続して不使用の利害関係者による訴状が出されると、登録官はその登録商標を取り消す。

 

[VIII]救済の実施

行政法(税関)、刑法及び民法

 

[IX]登記の下で登録された商標

現行制度で登記の際に記録されたすべての商標について出願人は新法の下で再度保護を求めて出願しなければならず、そのような既に登録された商標について商標権者の登録された宣誓供述書の写しを提出しなればならない。

 

[X]有効期限(存続期間)と更新

商標出願から10年間。更新料金を納付することにより有効期限(存続期間)の末日に10年間の更新の出願をすることができる。

 

[XI]アピール

  • 登録官によってなされた決定に不服がある者は、長官に対して60日以内にアピールを請求することができる。
  • 長官がした決定に満足しないアピールの請求人は、アピールの決定から90日以内に裁判所に訴えることができる。その裁判所は最高裁判所によってこの問題に対して権限が与えられている。

 

[XII]IP裁判所

商標の訴訟、若しくは刑法上の訴え及び民法上の訴えを審理し、決定するために、最高裁判所はIP裁判所を創設し、裁判官を指名しなければならない。